先手:六の宮の姫 後手:イリア伯爵令嬢 手数----指手---------消費時間-- *『おぜう様七番勝負』という企画が立ち上がったとき、昔々に潰えていた筈の指し将棋の火が僅かに紅く火勢を増したように思いました。企画のとよしさん、対局者のおぜうさま、ありがとうございます。 1 9八香(99) *幼いころから指し続けてきた身ではありますが、立て続けに色々なことがあり、モチベーションもそうですが体調や山積する様々なタスクなどなど……将棋から離れてみようかしら、と思っていました。その前にどなたかに見て頂きたい、と思っていたのが、すべての駒の効率を純化させることを目指した変幻自在の駒組み、仮の名を『御姫しすてむ』でした。この駒組みの内容について逐一触れることはしませんが、おぜう様は相当研究なさったはずなので、何かを燃え移らせることが出来たなら本望と思います。後はおぜう様に聞いて下さい(逃) 2 3四歩(33) *対局者紹介なるものをしてみむとす…… おぜう様は面白い方ですね。頭の回転が速いなぁと思わされることもよくあり、趣味のセンスも良いですし…… 得意戦法の欄に並んでいるのは物騒な戦法が多いですね、好戦家なのでしょうか。最近不調続きと仰っていましたが、さてさて。 3 3八金(49) *わたしのことは別にいいのですが……なぜこのような珍妙な形に未来を見出したかを考える際の一助となるかもしれないので少しだけ、ほんの少しだけ。 将棋について触れるなら、最初に読んだ棋書は大橋宗英の『将棋早指南』でした。最近読んだものだと『大道詰将棋の正体』は面白かったですね。好きな棋士は天野宗歩と村山聖です。なんでも指してきました。御姫しすてむを形にするためには檜垣是安の棋譜から最新の菅井式阪田流まで一通り研究したでしょうか。24は八段まで行ってBANされました。この前mztn流のmztn7さんも憂き目に遭ってましたが、御姫流はmztn流と同様BANされるほど優秀なのかもしれませんね。 4 8四歩(83) *後手は飛車先も角道も突いてきますが、まだ様子を見ます。 それは横歩取りや相掛かりが代表的ですが、『飛先を決める手』『角道を開ける手』というこの世で最も多く指されているであろうふたつの手をどうにかして損にさせよう、という考え方こそ将棋の根幹近くにあるものだと思うからです。 5 7八金(69) *水鏡のようなものかもしれませんね。争点を限りなく少なくした夢幻の懐で相手の攻めを映し、最も厳しい形で返すことを狙います。 6 7二銀(71) *棒銀もありますが、飛先を伸ばし切っていないことをみるに83銀と止めて銀冠へ移行する順もある、とこのときは見ていました。 この形で対局をすると結構な数の方が一目散に85歩から飛先を交換しにきます。しかし果たしてこれは得なのか、というのは、「飛先を切らせても効率で差を付ければよし」を地で行く雁木戦法が平成の世によみがえったことを想起しても少し考える所があります。むしろこのように飛車を振って囲いに変化させる余地を奪っている可能性もあり、奥が深いですね。 7 7六歩(77) *すでに余談ない駒組みですね。おぜう様は本気で勝ちに来ているのだなぁと思いました。盆地なので部屋もたしかに寒かったのですが、なにかに肌が粟立ったのを覚えています。 こちらから角道を開けて舞を誘いましょう。角交換から後手棒銀で銀を換えあう速攻は、△86飛に▲87銀と打ち、いきなり左辺に銀冠を築いて先手がよい、というのがわたしの目下の結論です。あとは右辺で56銀47金37桂を目指しながら飛車を浮いたり引いたりしつつ、銀冠穴熊に組めばいいのです。簡単でしょう? 8 4四歩(43) *閉じてきましたね。予想通りです。これで振ってくるのに加え右玉や雁木、風車なども視野に入るのでしょうか。角道を閉じる手は損になる場合とならない場合があり、相手の暴れる余地を奪える場合は損にならない様に思います。 9 4八銀(39) *ところで伯爵令嬢は何で洋風貴族なのに将棋を嗜まれているのでしょうね。謎です 10 8三銀(72) *本筋じゃないのでどうでもよいのですが、大阪道場のフリーで観戦15人というのはわたし初めて見ました。東京道場の後段タブで斬り合ってた頃はもう少しいたでしょうが、みなさん知らない方々でしたし……そう思うと見知ったハンネが下の方に表示されるにつれ、おぜう様って愛されてはるんだなぁ、と不思議な感慨を覚えたものです。 11 6八銀(79) 12 4二銀(31) 13 4六歩(47) *すべての手に意味を持たせたい、と言っておきながらですがこれは不用意な手でしたね。先に69玉と寄る方が勝りました。玉の安定を後回しにするのはあまりよくない。『安定』とは囲えばいいというものではないですけどね。矢面にいるようで中住まいや右玉は逃げ場が広かったりしますし、まっしぐらに堅い囲いへ、と走ってシステムやトマホークに泣かされた覚えがある方も大勢いるでしょう。 14 4三銀(42) 15 4七銀(48) 16 5四歩(53) 17 5六銀(47) 18 3三角(22) 19 4七金(38) 20 5二飛(82) *ここで先に△62玉と上がる手を読んでいました。右玉含みで、選択肢は最後まで手放さないということで。もっというと振るならば4筋に振ってくるのかなぁという読みの方が本筋だったので、なるほど66歩55歩67銀となれば戦いは鍔競り合いのまま長引くという読み筋が入ってきたときは面白かったですね。だらだら長引けばよいというものではありませんが、楽しい将棋は長く続けばよい、と思うのが人情です。妖怪ですけど。 21 6九玉(59) *ここですぐ動いて来ないようなら囲い合いだろうという読みです。すぐ動く順もないですしね。 22 7二金(61) 23 7九玉(69) 24 6一玉(51) 25 7七角(88) 26 7一玉(61) 27 3六歩(37) *居飛穴まで入ることができれば御の字ですが、入った瞬間にねらわれることもありますので、戦える用意はしておくのが良いと思います。そうでなくともこちらは飛先不突なので、堅さ頼りの姿焼きとなっては笑えませんからね。本譜では袖から使いましたが、ガラシャが袖に懐剣を潜めて秀吉と逢ったように、心の用意をしておきました。奥床しさとは消極性の換言ではなく、常に後の先を伺う武の心に通じているようにも思うのです。 28 9四歩(93) *これは難しい手でしたね。端攻めも含みになりますが、本譜のように右辺から居飛車が捌けたとき、一段飛車を活かしていきなり△93銀のように駒を棄てるスペースが生じます。逆に言うなれば、漫然と端を突き合うのでなく終盤にこの一手によって生まれた新しい変化までこの時点で読みの片隅に置いておきたい。 29 9六歩(97) 30 8二玉(71) 31 8八玉(79) 32 7四歩(73) 33 9九玉(88) 34 5一金(41) *代えて△73桂~45歩と開戦する順もあったと思います。一例は△73桂▲79銀△45歩▲33角成△同桂▲88角と打って△42金と吊ってから▲37桂と跳ねる進行。穴熊なのに敢えて88のマスを空けてあるのは一直線穴熊と中飛車の対抗を想起していただければ。 35 7九銀(68) 36 6二金(51) 37 8八銀(79) 38 6四歩(63) *穏やかな駒組みが進んでいますが、一手一手に精密な読みを入れてきているのが伝わりました。飛び道具への備えといいますか、隙の無い立ち居振る舞いは令嬢らしさがありますね。 先手はここで少し迷いどころです。79金と引いて連結をよくしながら78飛の転回を見せるのも一興。それとも本譜手順のように袖から使ってみるか、というところです。後者だと飛車交換のあとの打ち込みで78の浮いた金を狙われる順がありますね。これを少し気にしましたが、角交換から45角と打って78の金に紐を付けつつ後手銀冠の72,63の急所を狙う攻防打が見えたので袖から行くことにしました。 39 3八飛(28) 40 8五歩(84) *御姫流端玉銀冠と便宜上いいますが、しばらく振り穴に対して端玉銀冠+8筋位取りの形を指し続け高勝率を誇っていたときがあります。最近ときどき加藤女王が採用されているでしょうか。わたしのチェスブログのエイプリルフール企画でちら見せしたこともありましたっけ。 この手をみたときにはぞわりとしましたね。わたしがやってきたことがついに逆用された様に思い、相当な準備をされてきているのだと改めて思いました。結果的にこの手が終盤の歩頭桂という勝負手を生むので、油断ならない体取りでした。 41 6六歩(67) *55歩を突いて貰って手順に67銀と引き、76をケアしながら角の配置換え、という順を図りました。読み通りの進行が数手入ると、呼吸が合っているようで、戦っているとはいえなぜか嬉しくなるものです。この感覚を久々に味わえてよかったです。 42 5五歩(54) 43 6七銀(56) 44 7三桂(81) 45 5九角(77) *26に出られれば、35歩と突く味が良いでしょう。 46 6三金(62) 47 3五歩(36) 48 3五歩(34) 49 3五飛(38) 50 3四歩打 *ここでは△42角、△32飛もどれも一局かと思います。早々に交換可能にすることでまた違った将棋になるかと。結果的には34歩で穏便に収めに行ったことで、後手は中盤のレベルを自ら高めたように感じました。 51 3六飛(35) *38飛との比較は、26飛の回り込みと37桂を下から使えるという点でやや浮き飛車が勝るという検討です。いきなり袖飛車に組む戦法を指す人はあまりいないのかもしれませんが、指さない戦法でも概念を学習しておくことで自分の将棋の、『手を作らなければならない』難所に活かせるものが必ずやあると思います。 52 4二角(33) *ここで△24角、と飛車の働きを抑え込みに来る手や、△65歩~△54金、と盛り上げて来る形を警戒していました。5筋、8筋の位を取られるのは結構怖いところがあります。 53 3七桂(29) 54 5一飛(52) *この飛車引きは定跡だから、ではなく駒の声が聞こえたから指された手なのでしょうね。過不足ない最高のタイミングでした。 55 6八角(59) *▲45歩~▲44歩や、▲77角~▲26飛という手もありましたが、最も難解なポジション取りを強いると思われたこの角引きで、おぜう様の本気に応えたいと思いました。どこかで△24角と出ないと居飛車が捌ける、と読んでいましたし、出られて31飛~34飛と石田に組まれてもそれは姫の細腕の見せ所ということで。 56 3一飛(51) *31飛自体は悪い手ではないのですが、やや早計だったかもしれない、とは感想戦で行われた遣り取りです。一例としてはここで換えて△24角とし、▲16歩△35歩▲26飛△54銀▲15歩に△31飛と持って来る順がありますね。△54銀に替えて△34銀と出る手もありそうですが、8筋の位を取っているのだから左に駒を集め45を急所にする方が勝るでしょう。 ここまで互角、お互いにミスなく組んできたように思いますね。 57 5六歩(57) *これで右金を捌く余地が生まれたのは大きかったのでは。 58 5六歩(55) *取らずに△35歩と突いて▲26飛△34銀と上段から押さえに来る順が勝ったでしょうか。読んでいて思いましたがそれはもはや居飛車の対振り持久戦の手ですね。御姫流端玉銀冠では似たようなことをずっとやっていました。 59 4五歩(46) 60 4五歩(44) *これも取ってくれるとは有り難い。57歩成は爆弾になり得る手ですが、角のダイアゴナルが空いた方が相対的に良さそうです。 61 2六飛(36) 62 2四歩(23) *わたしは△32銀として▲43歩と叩き△15角にどう面倒を見ようかと読んでいました。体勢を崩した時は捕まるところを探すのではなく、踏ん張って耐える方が良いこともあるのかもしれませんね。 63 5六金(47) 64 4四銀(43) *代えて△51飛▲24角△同角▲同飛△55歩の方が振り飛車側に面白味があったかもしれません。これだとやはり▲43歩と棒手裏剣が刺さります。 65 4三歩打 66 3三角(42) 67 4五桂(37) 68 3五銀(44) *これは▲同角から捌かせて寧ろお手伝いだったかと。先述した21飛成~93銀~91竜のようなアグレッシヴな順が生まれるので、堅さが活きる展開になりそうです。 69 3五角(68) 70 3五歩(34) 71 3三桂成(45) 72 3三飛(31) 73 2四飛(26) 74 4三飛(33) 75 4四歩打 76 5三飛(43) *▲23歩△43歩成▲24歩はどうだったのでしょう。 77 2一飛成(24) 78 1二角打 *遠見角、おぜう様好きですよね。 なかなか難しい局面ですが、わたしが後手なら▲55桂を消す意味で△55歩と打ってみたかった。他にはここで△86歩と突き△85歩と連打するのもありますか。桂が入ったので87の地点をこじ開ければ△87桂のような手がいつでも入る様になります。 79 1一龍(21) 80 5六角(12) 81 5六銀(67) 82 5六飛(53) 83 4五角打 *後手からの角切りの順はこれが攻防打になるので踏み込んで良いと読みました。 84 5三飛(56) 85 5四歩打 86 3三飛(53) *代えて△54同金には▲43歩成がぴったりなので逃げるなら致し方ないですが苦しいですか。 87 5五桂打 88 6九銀打 89 7九金(78) 90 8六桂打 *これは鬼気迫る勝負手でしたね。頭にはありましたしどうやっても一手余裕があると読み切ってはいましたが、渡す駒や位置取りのミスによってはこちらが死ぬこともあり得る強襲です。これを捻り出してくる人は不調でもなければご本人が謙遜するほど将棋に昏い訳でもない。不屈の意気込み感じる、将棋が好きな人の手だと思いました。 91 8六歩(87) 92 8六歩(85) 93 4三歩成(44) *この手は飛車取りですが、むしろ63まで通っている33の飛車の利きを遮る方が狙いです。これで▲63桂成がより厳しく入ります。 94 8七金打 95 6三桂成(55) *この手はこの状況では非常に受けにくい詰めろです。 96 8八金(87) 97 8八金(79) 98 8七銀打 99 7二成桂(63) 100 7二銀(83) 101 8四香打 102 9三玉(82) 103 9一龍(11) 104 8四玉(93) 105 9五金打 *歩頭桂に歩頭金ですか。派手な技が出る終盤でした。勝敗の如何ではなく佳き友人と舞い踊れたことへの感悦や、善き対局が終わりを迎えることへの寂寞など、万感の想いでした。 106 8三玉(84) 107 9四金(95) *改めて、対局者のおぜう様、企画発案のとよしさん、見て下さった方々に謝意を。またどこかでお会いしましょう。