先手:安部 菜々 後手:前川 みく 手数----指手---------消費時間-- *第〇〇期アイドル候補生リーグ17回戦、▲安部菜々―△前川みく 戦を中継、解説する。リーグ成績は安部11勝5敗、前川10勝5敗。持ち時間は各1時間(チェスクロック使用)で、使い切ると1分将棋。9時開始。 朝、安部が一番早く入室。盤の前に座って瞑目する。しばらくして候補生たちが続々と入室し、前川も着座した。対局5分前に前川に促されて駒を並べ始めた。 安部はやや手前側に、線から1mmほど離して置いている。前川はマス目の真ん中に駒を置いている。 (棋譜・コメント入力=生垣) [コメントの#は局後の感想が追記されたものです] 【アイドル日誌 ウサミン星人の一番長い日】 (要会員登録) http://www.nicovideo.jp/watch/sm30945050 1 2六歩(27) *安部は背筋を伸ばしてから、ゆっくりと▲2六歩を着手した。 ◆安部菜々(あべ なな)候補生◆ 5月15日生まれ、永遠の17歳。出身はウサミン星。タイプはキュート、趣味はウサミン星との交信。 居飛車党で、矢倉党。序中盤の戦型選択が流行とは少し異なるために「ウサミンワールド」と呼ばれている。 2 3四歩(33) *前川は着手を見てから、少し前かがみの…猫背になって△3四歩と応じた。 ◆前川みく(まえかわ みく)◆ 2月22日生まれ、15歳、大阪府出身。タイプはキュート、趣味はネコカフェ巡り。 振り飛車党で、主に三間飛車を選択する。三間以外の戦型も、散見される…ふふっ。 3 7六歩(77) *角道を開ける。角交換するかどうかが最初の分岐点になるだろうか。激しい序盤も、好感はもてる。 4 4四歩(43) *自ら角道を止めた。これはノーマル振り飛車の流れになる。 5 4八銀(39) *先手は居飛車、振り飛車どちらにも対応できるように構える。 6 3二飛(82) *三間に振った。しばらくは駒組みが続きそうだ。 7 2五歩(26) 8 3三角(22) 9 6八玉(59) 10 4二銀(31) 11 7八玉(68) 12 6二玉(51) 13 5八金(49) 14 7二玉(62) 15 5六歩(57) *後手は美濃に組むことがほとんどだが、先手は急戦か持久戦か態度を決める必要がある。 16 5四歩(53) 17 3六歩(37) *3筋の歩を突いた。このタイミングということは、急戦が有力か。 18 8二玉(72) 19 6八銀(79) *左銀を上がった。これは船囲い急戦の意思表示とみて間違いない。 20 7二銀(71) *前川は美濃に組む。これで自玉は十分に堅いのが強みだ。 21 5七銀(68) *れで本美濃囲いとなった。場合によっては、△6三金と発展させて高みの見物もできる。 22 5二金(41) 23 6八金(69) 24 9四歩(93) 25 9六歩(97) *端歩のお付き合い。損得は難しいところだが、居飛車急戦では端攻めの筋も頻発する。端の話は、終盤にならないと分からない。 26 6四歩(63) 27 3五歩(36) *いきなり仕掛けた。△同歩と取れば▲4六銀と出て戦いを起こす狙いだろう。 #「これ以上待って良くなるわけじゃないですし」(菜々) 28 4三銀(42) *歩を取らず、銀で備える。 #「ここあっさり取ると、振り飛車はだいたい勝てないにゃ」(みく) 29 3四歩(35) *そのまま歩を取り込む。この筋の折衝が、勝敗にまで響いてきそうである。 #「ここで▲4六銀と出ると、対四間飛車急戦の定跡と比べて1手損するんですよねぇ」(菜々) 30 3四銀(43) 31 3八飛(28) *飛車をひとつ寄って銀取り。 32 4三銀(34) *引いて受ける。手損のようだが、歩が駒台に乗ったことをプラスとみて、飛角を捌く狙いだろう。ここから先は、駒の働きを比較することが重要になってくる。 #「3五に歩を打つと、目標にされちゃうんだよね」(みく) 33 3七銀(48) *じっと銀を上がる。こちらは抑え込みも視野に入れているようだ。 #「まぁ定跡ですよね」(菜々) 「後手持って、全然指したことないにゃあ…。みんなやってこないもん」(みく) 34 1五角(33) *角を飛び出す。大駒を活用しつつ、一気に攻める狙いもありそうだ。ここで捌ければ、振り飛車が勝つような展開にできる。俗に『幽霊角』と呼ばれる位置で、ヒモもついていないが受けるのも難しい。由来はおそらくその不気味さからだが、好んで指す子もいるらしい。 35 4六歩(47) *次に▲4五歩を突いて、攻め合いに持ち込む構想だろう。急戦を選んだ以上、受けに回って良くなる陣形ではない。 #「△3七角成は防げないので、突っ張るしかありませんね」(菜々) 36 3五飛(32) *4五の地点を受ける飛車浮き。△2五飛もみている。 37 1六歩(17) *角を追い立てる。ここで逃げると▲3六銀があるので、決戦になりそうだ。 38 3七角成(15) *切った。 39 3七飛(38) *飛車のお見合いである。 40 3六歩打 *お見合いは拒否された。飛車を抑え込んで目標にする指し方のようだ。後手はゆっくりしていると角銀交換の駒損が響いてくる。 #「精算しちゃうと、▲4五歩が厳しいんだよね」(みく) ここで△同飛成▲同桂△3六歩と攻めるのは、▲4五歩の一手が入る。△3七歩成▲4四歩△3四銀▲3一飛となると、銀取りや▲4三歩成が残って後手忙しい。桂頭攻めに傾倒しても、効果は薄いようだ。 「昔の本に載ってましたねぇ。読んでてよかったです」(菜々) 「え、そうなの?」(みく) 41 2七飛(37) 42 3八銀打 *さらに飛車を追いかける。桂馬を取れば、△3七歩成でと金の卵を孵すことができる。 43 2八飛(27) 44 3七歩成(36) *と金の卵が孵った。このと金は働き次第でトキにもマムシにもなるだろう。 45 2六角打 *ここで返し技があった。飛車を逃げれば▲3七桂で攻めが切れる。と金はできれば玉に近づける方向に使いたいので、△2八と▲3五角とはしにくいだろう。 46 2九銀成(38) *桂を取った。後手はさらに駒損するが、と金の活用を優先した手だ。 47 2九飛(28) 48 3六飛(35) 49 4五歩(46) *先手からすると、待望の一手。 50 5五歩(54) *振り飛車の手筋で『大駒は近づけて受けよ』の格言通り。△5一歩の底歩を打てるようにしておくのも大きい。 51 5五角(88) 52 4七と(37) *攻めのスピードアップを図る一手。と金は消えるが、竜をつくることができる。 53 4七金(58) 54 3八飛成(36) *これが金と飛車の両取りになっている。 55 5九飛(29) 56 4七龍(38) *これで駒を取り返すことに成功した。 #「先に駒損してるから、これで良いわけじゃないけど…」(みく) 57 4四歩(45) *急所の取り込み。 58 5四銀(43) 59 4三歩成(44) *角二枚の効きが一気に通った。 60 4三銀(54) *しばらく考えて、銀で取った。 #「これ、前例は金でしたよね」(菜々) 「そうなの?」(みく) どちらで取っても▲1一角成があるため金銀の連結を考えて銀で取ったようだが、△同金よりも少し損な手だったようだ。 数手先で違いが現れる。 61 1一角成(55) *待望の角成り。▲4八香の先手になっている。 62 3六龍(47) *竜を逃げつつ、角取りの逆先。 63 1七角(26) *角のラインを確保する方向に逃げた。 64 4五桂打 *先手の囲いは金銀二枚で、ここを崩せば一気に寄せることもできそうだ。よって△4五桂と銀を剥がしにかかる。 安部は前傾姿勢で考えている。ときどき、腰をそらすような動きをするのはクセなのだろうか。 65 9五歩(96) *小考して、端に手をつけた。よくみると、1七にいる角が遠く7一にまで効いている。 #「横は堅すぎるので、攻めるなら端くらいしかありません」(菜々) 66 9五歩(94) *垂らす。三歩持ったら端攻めというが、この場合は二歩で事足りそうだ。端に散布する歩は、少ないほど得である。 67 9三歩打 68 9三香(91) 69 2一馬(11) *ここで桂馬を拾った。馬の効きは逸れるが、端攻めの戦力としては非常に魅力的である。 #ここで△同銀と取った弊害が出た。△同金ならばその前に△3三桂と跳ねておいて、桂を逃がしつつ馬の効きを遮ることができたのだが、本譜はタダで取られることとなった。 「▲3三馬と切って、桂を入手する前例もあるくらいですからねぇ」(菜々) 「△4五桂から迫れると思ったけど…端がこんなに厳しいなんて」(みく) 玉を引く余裕がなかったのは予想以上に大きかったようだ。 70 5七桂成(45) *攻め合いながら、終盤に突入しそうだ。 71 5七飛(59) 72 3八龍(36) *次は△8八金が厳しいので、先手は受ける必要がある。 73 6九香打 *『金底の歩岩より堅し』というが、金底の香も堅い。位置もロック(6九)だ、岩だけに。 74 4八銀打 *飛車取りに銀を打つ。逃げるとするなら▲5八飛だが、△6七金くらいでも攻めが続きそうだ。 #「これがかなり厳しいと思ったんだけど…」(みく) 75 3九歩打 *ギリギリのタイミングで底歩を打つ。竜が動けば、先手の飛車も生還できそうだ。しかし竜取りゆえ、黙って静観するわけにもいかない。 #「これでなんとかされちゃうなんて…」(みく) 76 5七銀成(48) * 77 3八歩(39) *飛車と竜の取り合いになった。 78 6八成銀(57) 79 6八香(69) *#「局面がきれいになると、先手が取れなくなるから…。ここからはハッキリ悪いにゃ」(みく) 「こうなってくれるなら、居飛車急戦としてはありがたいです」(菜々) 80 4九飛打 *下段に飛車を打った。△7九金や△1九飛成の狙いだが、先手玉はまだ安全だ。 81 9四歩打 *手番が渡ったところで、ようやく端攻めを続行する。ここまでくると、1七角が光り輝いて見える。 #「玉引けないと…ほっといたら詰むもんね」(みく) 次に▲9三歩成△同玉(△同桂は▲9四桂)▲8五桂に、(1)△8四玉は▲7五銀△8五玉▲8六銀打△7六玉▲6六飛まで、(2)△9四玉も▲8六桂△8五玉▲7五飛△8四玉▲8五銀△9三玉▲9五香△8二玉▲9一銀までの詰み。変化はいろいろあるが、この端攻めが厳しすぎたようだ。 82 9四香(93) 83 8六桂打 *取った桂を、急所に打つ。どうやら形勢に差がついてきたか。 前川は苦しげな顔をしながら小刻みに体を揺らして考えている。 #これも▲9四桂以下の詰めろ。 「美濃は残ってるのに…ひどい展開にゃ」(みく) 84 8四金打 *ここに金を手放すようでは苦しげだが、替わる手も難しかったか。 85 7五銀打 *さらに数を足す。 86 9三金打 *数の攻めには数の受け…というわけだが、根性の一手だ。今生のお願いというべきか。 確かに、端を突破するのは難しくなった。先手は駒を持っているが、打つスペースが難しい。ゆっくりしていると△1九飛成がくる。 #「粘られたかな?と思ってました」(菜々) 87 4四歩打 *角の効きが通っていただけに、少し意外な歩打ちだ。どんな構想を描いているのだろう。奏功すればいいのだが。 88 4四銀(43) *後手は取るしかない。 89 8四銀(75) 90 8四歩(83) 91 5八銀打 *安部は銀を持って、自陣に打ちつけた。先ほどの▲4四歩の効果で、△1九飛成に▲4四角を可能にしている。 92 1九飛成(49) 93 4四角(17) 94 5七歩打 *迫りたい前川は、手裏剣の歩を飛ばす。 #「ここであいさつする時代じゃあないですよねぇ」(菜々) 95 7一銀打 *△5七歩は厳しいが、詰めろになっていない。この瞬間にスパークをかけた。 96 7一金(61) 97 7四桂打 *美濃崩しでみられる、継ぎ桂の手筋。 98 7四歩(73) 99 7四桂(86) 100 7三玉(82) 101 7一角成(44) *金を取った手が詰めろ。2一の馬も効いていて、受けは難しそうだ。先手玉に迫るしかないが、取られそな銀がよく効いている。 102 7七歩打 *なるほど、この手があった。▲同桂と取ると、△8九銀で大事件になる。 #「一瞬、ヒヤリとしました」(菜々) 103 7七玉(78) *よって玉で取る。 104 7九龍(19) *合駒を打ちたいが、後手玉への詰めろが解除されてしまう展開は避けたいところ。 105 6六玉(77) *上部へ逃げた。怖いところだが、馬も効いているので、意外と丈夫そうだ。 106 6五銀打 107 5七玉(66) *歩を払いつつ、大海へと逃げだす心づもりだろう。ここで前川が1分将棋になった。 108 7六龍(79) *王手の連続で駒の位置が変わったため、後手にも手段が生まれていた。上部を開拓しつつ、次の△5六竜が厳しい。 まだ先手が残しているだろうが、一手誤ると勝敗が入れ替わりそうだ。 互いに前傾姿勢で盤を見つめている。 #「粘ってるだけなんだけど」(みく) 「上に逃げられると、逆転模様ですから怖いです」(菜々) 109 5五金打 *△5六竜を受けつつ、攻めにも利かした一石二鳥の手。 110 4五桂打 *取れば△5六竜とできるが、大海に逃がすのは防げないといった手か。 111 4六玉(57) *玉が航海に出そうだ。この手を後悔することはないだろう。 112 7四龍(76) *急所に効いていた桂を外した。少し手が止まる。安部も1分将棋となった。 113 6五馬(21) *ひときわ高い駒音で馬を切った。ここで緩むと、後手玉は堅くなる一方とみたのだろう。 △同歩と取ると、▲6四銀と空いた地点に打って寄りそうだ。 #「粘れたと思ったけど…これが厳しかったかな」(みく) 114 6五龍(74) *よって竜で取る。 115 6五金(55) *これも、単に△同歩と取ると寄りそうだ。先手が勝勢になってきているか。小生は読み切っていない。 116 1九角打 *王手を利かす。先手の応手も悩ましい。 #結果的にこれが悪手で、粘りようがなくなった。 「打つなら2八から打つべきだったにゃ」(みく) 117 4五玉(46) *強く桂を取った。 118 4四歩打 119 3四玉(45) *これで、先手の玉は捕まらない。 120 6五歩(64) *金を取って、迫る手段を模索する。前川は、少し天を仰いでため息をついた。 121 7九飛打 *王手角取りが掛かった。 #「後から気づいたけど、どうしようもなかったね」(みく) 122 7五歩打 *中合いだが。 123 1九飛(79) *この手をみて前川が投了した。以下は先手玉は詰まず、後手は粘る手段がない。 終局時刻は午後0時17分。消費時間は、▲安部1時間30分、△前川1時間30分。 この結果、安部が昇格への望みをつないだ。 #感想戦は手短に行われたが、序盤から安部の領域だったことが大きかったようだ。手としては60手目△4三同銀が疑問手で、75手目▲3九歩で後手の攻めが途切れてしまった。以下は前川も粘ったが、逆転には至らなかった。 「また勉強しないとダメにゃあ」と苦笑しながら前川は去っていった。