先手:渋谷 凛 後手:安部 菜々 手数----指手---------消費時間-- *第〇〇期アイドル候補生リーグ18回戦、最終戦である。▲安部菜々―△渋谷凛 戦を中継、解説する。持ち時間は各1時間(チェスクロック使用)で、使い切ると1分将棋。午後2時開始。 渋谷に促されて安部が駒箱を開く。渋谷が大橋流、安部が伊藤流で並べていき、しばらく目を閉じて開始の合図を待つ。 (棋譜・コメント入力=漣) [コメントの#は局後の感想が追記されたものです] 【アイドル日誌 ウサミン星人の一番長い日】 (要会員登録) http://www.nicovideo.jp/watch/sm30945050 1 7六歩(77) *ちひろさんの開始の合図で最終局がはじまった。初手は▲7六歩。 ◆渋谷 凛(しぶや りん)候補生◆ 8月10日生まれ、15歳。出身地は東京都。タイプはクール、趣味は犬の散歩で、ハナコという犬を飼っている。ファンの間では有名らしい。 主に居飛車を指すが、振り飛車も時折指している。攻め将棋で、鋭い手を連発する様子から「蒼い」と形容されることが多い。 2 8四歩(83) *少し間をおいて△8四歩と応じた。相居飛車なら、矢倉か角換わりになることが多い。 ◆安部菜々(あべ なな)候補生◆ 5月15日生まれ、永遠の17歳。出身はウサミン星。タイプはキュート、趣味はウサミン星との交信。 居飛車党で、オーソドックスな形を好む。自玉の堅さはあまり気にしないようで、金銀を前線に押し出す将棋も多い。 3 2六歩(27) *▲2六歩と突いた。これは角換わりになりそうだ。 4 8五歩(84) *ここで△3四歩と突けば横歩取りや一手損角換わりの可能性もあるが、その作戦を目指すなら2手目に△3四歩を突けばいい。 5 7七角(88) 6 3四歩(33) 7 8八銀(79) 8 3二金(41) 9 7八金(69) *▲6六歩や△4四歩と角道を止めて矢倉に組む序盤もあるが、数は少ない。一方的に角道を止めるため、組み上げる前に動かれて形勢を損ねる展開が多いからだろう。 10 7七角成(22) *一番自然な角交換の序盤になった。これで手の損得はない。後手は左銀の位置や上がるタイミングを選べるのが主張で、先手は△8五歩と形を決めさせたのが一つの主張となる。 ここで角成りとせずに△4二銀▲2二角成△同金とする順もある。後に△3二金で通常の進行に合流する場合が多いが、壁形をわざわざ作るため選ぶ人は少ない。 珍しいものでは△4四角と飛び出しす手もあって『サイキック腰掛け角』と言うとか言わないとか…。 11 7七銀(88) 12 4二銀(31) 13 2五歩(26) *飛車先を決めた。突くタイミングとしては、いささか早いように思えるが。将来的に▲3七桂からの速攻を狙う場合、形を決めても損はないのかもしれない。 14 3三銀(42) *最近の流行は腰掛け銀模様から低い陣形で仕掛ける形。主に桂が戦端を開く役割を担うが、桂頭は弱く仕掛けも軽いだけにタイミングが重要となる。 15 3八銀(39) 16 7二銀(71) *先後同型になった。 17 2七銀(38) *この手をみて、安部は驚いたような表情を一瞬みせた。渋谷の戦型選択は先手角換わり棒銀。最近では見られなくなった戦型だ。この作戦をあらかじめ用意していたのなら、早い▲2五歩も説明はつく。 #「びっくりしました」(菜々) 「この作戦にしようと決めていました」(渋谷) 18 7四歩(73) *後手の対策は早繰り銀が一番多い。棒銀は1手遅く、腰掛け銀だと中央は厚いが攻めに時間がかかってしまう。 19 2六銀(27) *棒銀の狙いは攻めの銀と守りの銀の交換だが、後手もやすやすと受け入れるわけにはいかない。ここで端歩を突くか突かないかが、一つの分岐点となる。 20 1四歩(13) *端を突いた。これで銀の進出をひとまず防いだが、先手は端を目標に攻める展開になりそうだ。 21 1六歩(17) 22 7三銀(72) 23 1五歩(16) *すかさず仕掛ける。 24 1五歩(14) 25 1五銀(26) *ここで▲同香と取ると、△1三歩と受けられて二の矢がない。▲同銀なら、△1三歩には▲2四歩から銀交換に持ち込める。 26 1五香(11) 27 1五香(19) *これで先手は銀香交換の駒損だが、端を突破することに成功した。 28 1六歩打 *上ずった香車の裏に歩を垂らす。次に△1七歩成▲同桂△1九角の攻めが狙いだ。 29 1八歩打 *一回は受けておく。 30 4四銀(33) *桂馬の逃げ道を作りつつ、中央を支配する銀上がり。 31 2四歩(25) *駒損の先手は、さらに攻めを続ける必要がある。 32 1九角打 *飛車取りの角打ち。飛車を逃げるしかないが、△2四歩▲同飛となれば単に△2四同歩とするよりも△1九角を0手で打った計算になる。 33 2七飛(28) *▲2五飛は△3三桂、▲2六飛は△3五銀と出る手がある。よって形は悪いが2七へ。 約20年前に多く指された形で、NHK杯 羽生―加藤戦の『名手・▲5二銀』もこの形だった。 #「この形は…また懐かしいものを引っ張り出したなぁと思いました」(菜々) 34 2四歩(23) *ここから▲同飛△2三銀▲2六飛△3五銀▲5六飛と、飛車を目標に抑え込みを図るのが自然な進行になる。▲1二角のような手も目につくが、△3五銀とされたときに次の△2六銀が受からない。この順は後手良しが定説となっている。 35 1二角打 *と書いた矢先に▲1二角。これはどういうことだろうか。安部も目を見開き、しばし考え込む。 #「この先が気になって」(凛) 「まさか、この手を実戦でみるとは思いませんでした」(菜々) △3五銀以外には(1)△3三桂だが、▲2四飛△2二歩と打つ展開は後手が面白くなさそう。(2)△2二金▲3四角成は、32手目に△1九角とせずに△2四歩▲1二角△2二金▲3四角成△1九角と打つ変化に合流する。このとき後から打つと▲5八飛の余地がある分だけ得にはなっているが、それでも後手は難しいようだ。 「やられたら、咎めに行きたくなりますよ。△3五銀で」(菜々) 36 3五銀(44) *これで、先手の飛車は逃げ場がない。次に△2六銀と打たれると飛車が詰む。 37 2一角成(12) *これは銀桂と飛車の二枚換えになりそうだが、先に駒損している上に先手は居玉である。しかし、渋谷の表情は変わらない。 38 2六銀打 * 39 2六飛(27) 40 2六銀(35) *駒割は、桂香と飛車の二枚換えとなった。 41 8三香打 *飛車の目の前に、香車を放り込む。これが用意の一手だろう。 (1)△同飛は▲3二馬と金が取れる。(2)△5二飛は▲5五桂で受ける駒がない。(3)△4二飛も、同じような意味で▲4五桂と打つのだろうか。 先手玉も相当に怖いが、△2八飛に▲3八銀と打てばギリギリ凌いでいるかもしれない。ここで安部が長考に入った。 #これが渋谷の狙いの一手だった。 「この手自体は確か『羽生の頭脳』にも書かれていて、『この攻め合いは先手不利である』の一文で終わってました。でも、読んでみると意外と受けにくくて…」(菜々) 「そうなの?」(凛) 42 4二飛(82) *4二の地点へ。 43 4五桂打 *▲5三桂成と▲3三銀の両狙い。 44 6二玉(51) *▲5三桂成を受けつつ、玉を馬から遠ざけた。▲3三銀は打てるが、銀を手放すと△2八飛がある。 45 6九玉(59) *このタイミングで玉を寄った。7八の金にヒモがついたので、△2八飛には▲3九金と寄ることもできる。 46 2八角成(19) *後手が手を作れる地点は多くないが、△2八角成も大きな一手だ。 47 3三銀打 *ここで銀を打ちこんだ。馬がいるこの瞬間は△2八飛がない。 48 2九馬(28) *後手からすると、次の△4七馬が厳しい狙いになる。先手は合駒がない。 49 7九玉(69) *さらに玉寄り。『後回しにできる手は後回しにする』のが現代将棋だが、ここまでギリギリの玉移動もめずらしい。 50 4七馬(29) *次に△6九飛が王手金取りになる。 51 3二銀成(33) *金を取った。△6九飛▲8八玉△4九飛成はその瞬間が先手詰まないため、▲4二成銀で先手勝ちになのだろう。 #「飛車を取ってくれれば楽なんですけどねぇ」(菜々) ▲4二銀成△同金は、△5二金左と固める手があって飛、馬、桂では攻めきれない。重くても、後手の飛車を徹底して責める手順が秀逸だった。 52 5二飛(42) *逃げて、持駒の飛車打ちに期待する。 53 8八玉(79) *ついに、先手玉が入城に成功した。 54 1九飛打 *待望の飛車打ち。金を助ける手段が難しいようにも見える。 55 5九金打 *持駒の金を使って受けた。これは崩すのは容易ではなさそうだ。しかし先手の攻め駒は重く、繋がっているかどうかは難しい。 #「▲8三香と打ったからには、この局面まではくるかなと思った」(渋谷) 「変化するのも難しいですねぇ…囲いにいく玉を止められないとは」(菜々) 56 8六歩(85) *一発、利かしを入れる。どちらで取るか。 △同歩は上部に空間ができ、△同銀は玉のコビンが開く。 57 8六銀(77) *銀で取った。 58 8二歩打 *歩を大きくバックさせた。これで香車は助からない。玉の安全地帯の確保の意味合いが大きそうだ。 59 3三桂成(45) *確実に攻め駒を増やす。 60 7一玉(62) *飛車の逃げ道を開けた。そのまま▲4三成桂を許しては戦えない。 61 4三成桂(33) * 62 7二飛(52) *飛車が横に行ったり来たりと忙しない。先手が意図してそんな展開にしているわけだが。 63 5三成桂(43) *ジリジリと、成桂が迫ってくる。 64 8三歩(82) *香車を取って、左辺への逃走経路を確保した。 #ここで△6二銀とぶつける手も検討された。先手は勢い▲同成桂といくしかないが、△同金と拠点を払った得も大きい。以下は▲4二成銀△8三歩▲4三馬△4一歩▲5一成銀△4二香▲5四馬が並べられ、 「まだまだ先は長いけど、飛車を取った側が喜んで飛び込む変化じゃないです」(菜々) とのことだった。 65 4二成銀(32) *じっと成銀を寄せる。2一の馬筋も通した一手だ。後手としては手が広く、どんな方針で指すか悩ましい。安部がしばし考え込む。 66 4八歩打 *金二枚の防波堤に働きかけた。この歩は取りにくいので、▲5八金右とするのが自然に見える。 #ここからの手順が疑問とされた。安部は金が左に寄っていくのは仕方ないとみて、と金を作りつつ自陣に馬を引きつける順を選んだが、渋谷指摘の△5七馬が勝った可能性が高い。 ▲4三馬には△6四香と打って、直接先手玉に迫ることができる。以下▲5八金右△6七香成▲同金右△同馬▲4九歩△1八飛成と攻めのギアを上げれば、先手も振りほどくのは容易ではない。 先手も変化が可能で結論は出なかったが「後手が勝てるとしたら、ここで△5七馬しかなさそうです」(菜々)と悔しそうに5七の地点で馬を空打ちしていた。 67 5八金(49) *玉に近づく味の良い一手。 68 3七馬(47) *後手も、馬を自陣に利かせる。4八の歩はいずれと金にして先手陣に迫る心づもりだろう。 69 4三馬(21) *馬を攻めに活用した。しかし3枚の攻めで続けるのは難しい。成銀にヒモがついたので、△6三成桂から駒を補充する含みもあるのだろう。 70 4九歩成(48) *歩を成った。これも大きな一手だ。 71 6九金(59) *と金の陰になっているので、この金は取られない。△4八とには、▲6八金右寄として固めながら受けることができる。 #「やぶへびでしたねぇ」(菜々) 72 6四馬(37) *自陣に馬を引きつけた。こちらの馬はどちらかといえば守りだが、8筋を目標にしたときには攻めにも効いてきそうだ。 #「攻防に利かせて、指したるときはやれると思ったんですけどねぇ」(菜々) 本局の安部は、次の一手を軽視していた。 73 4四歩打 *ふわりと△4四歩。茫洋とした手渡しのような一手だが、馬がいなくなれば▲4三歩成とできる。4枚目の攻め駒の種をまいた。 #「これが見えてませんでした。こちらは攻めようにも、少し足りないんですよ。だったら、遡って△5七馬とするべきでしたか」(菜々) 74 4八と(49) *飛車筋を通さなければ、攻め合いは望めない。 75 6八金(58) *固めながら受ける。いつの間にか、金銀3枚のスクラムができている。 76 1五銀(26) *じっと香車を取った。桂香だけでは足りないとみたか。遊んでいる銀の顔を立てた意味にもみえる。 77 6一馬(43) *小考して、馬を切った。 #馬切りと歩成は、先手の権利になっている。 「分かってはいましたけど、この手自体は防げないんですよねぇ」(菜々) 78 6一玉(71) 79 4三歩成(44) *と金ができあがった。成駒3枚が固まっている不思議な形だが、攻めとしてはかなり厳しい。次に▲5二と△7一玉▲6二金のような順で、後手は受けがなくなりそうだ。 80 7一玉(61) *よって早逃げで頑張る。 #「2手損で、と金だけ残るんだからこっちはひどい話ですよ」(菜々) 81 5四金打 *実質金4枚の珍形ができあがった。馬取りと▲6三金の狙いが厳しい。これは先手の攻めが切れなくなったか。 82 3七角打 *粘りの一手。▲6三成桂には△5四馬として、また▲6三金には飛車を逃げて頑張るつもりだろう。 83 6四金(54) *馬の方を取った。 84 6四角成(37) *#72手目6四馬とした局面と比べて駒の損得はないが(1)△6一金が消えて、(2)4三にと金ができ、(3)角が先手の駒台に乗っている。 「12手も頑張って、結局大損ですか」(菜々) しかし、△4四歩とされて以降、後手が変化するのも難しいようだ。 85 4一角打 *執拗に6三の地点を狙う。 86 5五馬(64) *王手で先手の応手をみる。移動合いの▲7七銀(桂)には、△7五歩や△6五桂と攻めるのだろうか。△5八とも切り札として考えられる。 87 9八玉(88) *玉を寄った。普通の角換わりは端歩を突くことが多いが、棒銀で早くに戦いを起こしたために『端玉には端歩』とできない。 安部は少し苦しげな表情を浮かべながら盤を見つめている。 #「これで、どうしても遠いんですよねぇ」(菜々) 「速度が計算しやすくなったから、これで良くなったかなって」(渋谷) 88 9二飛(72) *先に飛車を逃げた。 89 6三成桂(53) 90 8四香打 *後手玉には、まだいくばくかの余裕がある。それまでに迫る形を作っておきたい。8筋がこの局面における先手陣の急所になりそうだ。 91 7三成桂(63) *3三に成った桂が、7三にまでやってきて戦果をあげた。 92 7三馬(55) *桂で取るのは▲6三角成が早く、△同馬しかない。 93 5三と(43) *と金のおそ早。 94 8六香(84) *こちらも銀を取った。▲同歩には△9五桂が急所の一手になる。 95 6三角成(41) *先手は攻めを続ける。 96 6一香打 *『下段の香に力あり』の通り、非常によく受けに利いている。先手を焦らせるような一手だ。 #「少し、この香打ちには手ごたえがありました」(菜々) 97 7三馬(63) 98 7三桂(81) 99 5二成銀(42) *この手自体はそこまで厳しくない。これは後手にも攻めの手番が回ってきたか。 100 9五桂打 *8七の地点に数を足した。7三に桂がいる効果で、一気に詰みまで狙えるかもしれない。 #後手はどこかで△5八とを効かせたかったのだが(▲同金右上なら飛車の効きが通って上下からの挟撃になる)手抜かれると、攻め合いで間に合わないのが大きかった。本譜はここからの先手の指し手が堅実だった。 101 6一成銀(52) *目障りな香車を精算する。 102 6一玉(71) 103 8八香打 *さきほど取った香車を8八に打った。不思議な形だがこれで受かっている。攻めては▲6三銀(角)や▲4三角といった手段に困らず、▲8六歩と取り返すこともできる。 ここで安部が考え込む。持ち時間は残り少ないが、最後の勝負所とみているのだろう。何か手を見つけることができるか。 #「うまく食らいついたと思ったんですけどねぇ」(菜々) 104 7九銀打 *安部の右手は銀を掴んで、とんでもないところに放り込んだ。金二枚が効いている。ほとんど表情を変えなかった渋谷が眉根にしわを寄せ、長考に入った。 どうやら、この手自体は詰めろのようだ。(1)▲同金引も△8七香成から詰み、(2)同金寄には△同飛成として▲同金△8七香成もまた詰み。 とんでもない手が眠っていたものだ。 #先手の8八香、7八金が動くと、△8七香成~△9五桂として、最後に△6五金と打って詰む。 「正直、びっくりした」(渋谷) 「これで決まれば、かっこよかったんですけどね」(菜々) 105 7九金(69) *しばらく考えて、金で取った。 106 7九飛成(19) *この局面が先手△8八竜からの詰めろ。どう指すのか。 107 4三角打 *王手で角を打った。6五の地点にも効かせている。 後手玉に即詰みはないので、途中で受けに回ることも考えられる。 108 5二歩打 109 9六銀打 *ここで受けに回った。後手は大量に持駒があるが、しのいでいるのかどうか。 後手としてはここで決めるしかない。ここで安部は考慮時間を使いきり、1分将棋になった。 #かなりきわどいが、この手が勝着だった可能性が高い。 「後手は詰まないし、こうするしかないから打ったんだけど」(渋谷) 「こんなに持ってて、勝てないんですか……」(菜々) 110 8七香成(86) *竜を取られるわけにも、逃げるわけにもいかない。後手は攻めるしかない。 111 8七銀(96) 112 8七桂成(95) 113 8七香(88) 114 8六桂打 *王手でこじ開ける。金銀4枚で寄せきれるかどうか。 #ここで△9六銀!という手も検討された。ギリギリ後手玉が詰まないタイミングで桂を温存しつつ、▲7九金には△8七銀成―△9五桂で詰ます狙いだが、▲同歩と応じられたときに僅かに足りないようだ。具体的には△9七銀▲同玉△8五桂打▲8六玉。王手はいろいろあるが、△8九竜が王手にならないのも痛い。 「いろいろ怖いところもあるから、正確に指せるかはわからないけど」(渋谷) 115 8六香(87) 116 8七銀打 117 8七玉(98) 118 8九龍(79) *竜を逃がしつつ、王手が実現した。 119 8八歩打 *しかし、この歩も堅い受けだ。 120 9五桂打 121 9六玉(87) *どうやら先手玉に詰みはないようだ。『桂先の玉寄せにくし』で、王手を掛けるスペースがない。 122 8四銀打 *安部は大きくため息をついて、銀を打った。この手自体は部分的に先手玉を受けなしにする厳しい手だが、手番が先手に渡る。 123 6四香打 *まずは香の王手。先手としては後手玉を詰ますか、攻防で後手の攻め駒を排除したい。 124 6三歩打 *中合いの歩。単に逃げると△7二玉や△8一玉のときに、▲5四角成の王手が厳しいということだろう。 125 6三香(64) *ここで香を成ると、王手でないので△8五金で終わってしまう。 126 7一玉(61) 127 6二銀打 *銀の追撃。 128 8一玉(71) * 129 7三銀(62) *王手の連続で迫りつつ、先手玉を受けなしに追い込んでいる要の桂を取り除いた。安部がうなだれる。 ここで安部が1分将棋に入った。 #「ここからはもう完全に負けですね」(菜々) 以降は検討されなかった。 130 7三銀(84) 131 6二香成(63) 132 2七角打 *遠見の角で粘る。 133 6五桂打 *先手としては、数を足していけばいいので分かりやすい。 134 7二金打 135 7二成香(62) 136 7二飛(92) 137 8五桂打 *後手としては苦しい局面が続く。 138 8四銀(73) 139 7三銀打 140 8二銀打 141 5二角成(43) *真綿で首を絞めるような手。先手はゼットに近いので、確実に迫ればいい。 142 9二玉(81) 143 8二銀成(73) 144 8二飛(72) 145 7三銀打 146 8一角成(27) *自陣に馬を引きつけて徹底抗戦。手番を得ることができれば、状況は変わってくる。 147 8四銀成(73) *あくまで冷静に決めに行く。飛車の方を取ると△同馬で粘る余地を与えそうだった。 148 8四歩(83) 149 7四馬(52) *王手で馬を引く。 150 8三金打 *なんとか弾いて、手番を得ようと頑張るが。 151 9四銀打 *これは決め手か。△同金とはできないし、△同歩は▲9三金まで。△7四金と馬を取れば▲9三銀成までの詰みだ。 この手をみて、安部は目を閉じた。 152 7二馬(81) *静かに馬を上がる。 153 9三銀成(94) *王手で迫っていく。 154 8一玉(92) 155 7三桂打 *これは、後手玉が詰み筋に入った可能性が高い。 156 7一玉(81) 157 6一金打 158 6一馬(72) 159 8二成銀(93) 160 8二金(83) 161 6一桂成(73) 162 6一玉(71) 163 5一飛打 *華麗な捨て駒。 164 5一玉(61) 165 5二馬(74) *この手をみて安部が投了した。完全な詰みの局面だ。 終局時刻は午後17時07分。消費時間は▲渋谷1時間20分、△安部1時間30分。 終局後は茫然としたまま感想戦をせずに去ってしまった安部だが、後に渋谷にそのことを詫び、感想戦を行っていた。 #本局は古い形から渋谷の研究で始まったが、先手の主張が通るのかどうかが終始検討のテーマになった。二人とも先手の攻めと入城そのものを止めることは難しいとの見解。△3七馬から自陣馬は▲4四歩で敗勢になったため、△5七馬とする順が主に調べられ「難解だが後手相当」とされた。「もしも△5七馬までダメだとすると、▲1二角に△3五銀ではなく△2二金とする必要があるかもしれません。ただ、これはこれで後手も大変です」(安部)という言葉でしめくくられた。